2014年03月10日

プラネタリウム館が果す天文教育の未来

今日、我が国においては国民のほぼ全員が「世界地理」と「世界史」の概要を理解し、常識として日常的に活用しているといえます。たぶん、大方の人は冬季オリンピック・パラリンピックの開催地「ソチ」の場所は詳しくは知らなくても、ロシアがどこにあるかは分かるし、ロシアがかつてはソ連であったという程度は理解されていることでしょう。これは、世界史が高校で必修科目となっていることが大きな力となっていることでしょう。国立天文台では30年後には宇宙の地理と歴史について同程度の知識を常識としてすべての方々に習得してほしいと願っています。そのためには学校教育はもちろんですが、今後は全国のプラネタリウム館、公開天文台のような生涯学習施設が地域の科学教育センターとしての機能を果たしてほしいと願っています。

宇宙を解き明かしたい。いつごろ、人類はそんな野望を思い立ったのでしょう。天からの文を読み解く学問「天文学」は、音楽や数学と並んで五千年以上の歴史を持つもっとも古い学問の一つと考えられています。地上に人工の明かりのない時代から、時々刻々と変わる星ぼしの位置を測り、時刻を知ることや暦を作ることは文明の発祥とともに必要でした。

その天文学が今、旬を迎えています。人類の根源的な問いでもある「私たちはどこから来てどこに行こうとしているのか?」、「私たちは何者で、宇宙には私たちのような生命が住む星は他にあるのか?」という二大テーマが、いよいよ解き明かされそうとしているのです。我が国でも小惑星探査機「はやぶさ」やすばる望遠鏡などが次々と国際的な成果を挙げ、人類の本質的な問いかけに対して国際貢献が可能な時代に入りました。基礎科学のビッグ・プロジェクトの遂行を幅広い国民層が理解し、その発展を望む時代へと日本もようやく欧米に追い付いてきたのです。

・すばる望遠鏡
 http://subarutelescope.org/j_index.html

02.jpg
国立天文台提供


・ALMA(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計)
 http://alma.mtk.nao.ac.jp/j/

01.jpg
ALMA(ESO/NAOJ/NRAO)提供


・TMT(次世代超大型望遠鏡計画、2014年建設開始)
 http://tmt.nao.ac.jp/

03.jpg
国立天文台TMT推進室提供


この国民意識の高まりに関与してきたことはいったい何なのでしょうか。私の聞き取りでは、研究者やアマチュア天文家で50代以上の方の多くは、書籍や雑誌の影響を挙げています。しかし、40代以下の方のかなりの割合の方が、子供の頃、科学館でプラネタリウムを見た経験を天文学に興味を持つようになった理由として挙げています。現在、国内には350館を超えるプラネタリウム施設があり、年間の観客数はサッカーJ1リーグの観客数、約500万人を大きく超え約890万人と推定されています(日本プラネタリウム協会の調査による)。その多くは「学習投映」といって小学校・中学校で学校では学びにくい夜間の天体観察の代わりに、昼間、移動教室等で科学館を訪ね、天体の動きを学び最新の天文・宇宙に関する話題に触れているのです。

我が国でその先鞭となったのは1969年に設置された東京都杉並区にある杉並区立科学教育センター(現:杉並区立科学館)です。ところが、その科学館が区の整備計画では再来年度で廃館と予定されています。

理由は施設の老朽化とのことで、建て替えた後は高齢者向けの施設を新設する計画です。整備計画によりますと区内の学校理科室の設備が充実してきたので、科学教育の機能は各学校に任されることになっていますが、計画通りにプラネタリウムの活用が出来なくなると、都内の夜間の空の明るさや治安を考慮すると、子供たちが宇宙について興味を持つ機会はぐっと減ってしまうことでしょう。

http://www2.city.suginami.tokyo.jp/guide/detail/10873/sisetusaihen_an_MID.pdf 
(この計画書の36-37ページに科学館廃止が記されています)

国内のプラネタリウムの多くは1980-95年のバブル期に建設されたので、10~20年後にかけて、同様の理由で次々と廃館になることが心配でなりません。天文学に限らず地域の科学館は科学教育の重要な拠点であるのにもかかわらず、生涯学習面での成果のみがこの間、重視されてきました。今後は、米国で学校区毎に置かれている科学教育センターのようにスポーツや音楽・芸術と並ぶよう学校教育を補完する学習機能の充実を国は図っていってほしいと思います。有名なスポーツ選手や国際的に活躍されている芸術家の多くは、学校ではなく地域で養成されているのですから、科学者や技術者の養成や一般市民の科学リテラシーの構築も同様に地域社会でその一端を担っていきましょう。

国立天文台でも、学校教育用の天体画像や動画、教育ソフトなどのコンテンツの提供や従来のプラネタリウムを超える教育ツールの開発と配給、研究者の学校や科学館への派遣等を通じて、全国の市民や子ども達の天文・宇宙への関心をさらに深められるよう努力していきたいと思います。

国立天文台の教育用コンテンツの例
・4D2U 4次元デジタル宇宙ビュア「Mitaka」
 http://4d2u.nao.ac.jp/html/program/mitaka/

・天体画像解析用ソフトウェア「マカリ」
 http://makalii.mtk.nao.ac.jp/

・宇宙図2013
 http://www.nao.ac.jp/study/uchuzu2013/

・「君もガリレオ!」プロジェクト
 http://kimigali.jp/

・ふれあい天文学
 http://prc.nao.ac.jp/delivery/

大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 国立天文台
天文情報センター・普及室長  縣 秀彦

       
posted by 事務局スタッフ at 12:00| UNIVERSEニュース

2014年01月29日

あなたの住む町の星空は?〜空の健康診断を続けよう

「全国星空継続観察」という事業を聞いたことがあるでしょうか。或いは、「スターウォッチング・ネットワーク」という名前のほうが知られているかもしれません。
これは、環境省の呼びかけで全国各地で一斉に星空の見え具合を観察する事業で、夏と冬の年に2回、1988年(昭和63年)から20年以上も続けられてきました。星空観察といっても星を眺めて楽しむだけではありません。星空の観察を通じて、自分たちが住む地域の夜空の明るさ、ひいては空(大気)の環境調査のための観察なのです。いわば、空の健康診断と言ってもよいかもしれません。
夜空の星を眺めようと思っても、街灯やビルの明かりが眩しかったり、なんだか空がどんよりと霞んでいて、星がはっきり見えないということはありませんか。天の川という言葉を知ってはいても、実際に見たことがないという人も少なくないかもしれません。星がきれいに見える空というのは、塵(ちり)が少なく澄んだ空、言わば健康な空と言えます。星の見え方は空の健康状態を調べるためのバロメーターになるのです。また、夜空を明るくする原因となっている夜間の人工照明の効率的な利用について見直す際にもたいへん参考になるでしょう。

自分たちが住む町の空の環境を星空を通じて調べ、それが年々どのように変化するか経過を見ること、さらに自分たちが住む町の空の環境にも関心を持つこと。それが、「全国星空継続観察(スターウォッチング・ネットワーク)」の目的です。
しかし、2013年春、環境省はこの事業の休止を決定しました。2011年度からこの事業予算が廃止、2012年度は多くの呼びかけ人や全国の有志に支援されながら事業継続はしたものの、2013年度は諸事情によりこの事業運営が困難になり、環境省が当面の休止を宣言したのです。
長年蓄積されてきた全国の夜空の明るさの継続観察データを途切れさせるのは、とても残念なことです。年に2回の定期健康診断を止めることで、空の健康状態を把握する手段の一つがなくなってしまいます。とくに、全国十数カ所の定点観測地点では、写真撮影による定量的な夜空の明るさの観測データが蓄積されています。国立天文台も、事業開始当初からデータの解析、そして2005年度からは定点観測地点としても、この調査に貢献してきました。

この休止となった事業が再開するまでの間、この観測データが途切れることを防ぐため、2013年夏、2014年冬の「全国星空継続観察」については、「暫定調査」という位置づけで夜空の明るさの写真撮影の調査の呼びかけとそのデータのとりまとめを、有志団体(星空公団)が引き継ぎました。2013年夏の調査は無事終えて、その結果が公表されています(冬の調査は1月21日〜2月3日)。
この調査は、特定の団体や個人に限らず誰でも調査に参加することができます。デジタル一眼レフカメラで夜空を撮影して、指定のサイト(デジカメ星空診断)へアップロードするだけです。

私も先日、「全国星空継続観察」のための夜空の写真撮影を職場(国立天文台)で行いました。雲一つないよく晴れた寒い夜、頭上には冬の星座が広がり、明るい1等星も、いちだんと明るい木星も、とてもきれいに輝いていました。でも、暗闇に目が慣れると夜空がとても明るいことを改めて感じました。とくに都心方向の低空では、その空の明るさに飲み込まれてしまうかのように弱々しくか細い光で星が瞬いていました。東京の夜空はなんと明るいことでしょう。
先日、若田宇宙飛行士が国際宇宙ステーション(ISS)から撮影した夜の日本列島の写真を見ても、関東平野の明るさに目を奪われます。人間が夜間活動するためには照明が必要です。でも、空に放たれている無数の明かりはほんとうに必要なものでしょうか。

25年前と現在、夜空の明るさはどのように変わってきたのでしょうか。私たちの頭上に広がる星空は、10年後も20年後も美しいままでしょうか。私たちの祖先が思いをはせた美しい星空や星空が見える環境を、未来に子孫に引き継いでいくのも、私たちの大事な使命の一つかもしれません。美しい星が見られる空の環境を守ること、そしてゆったりと星空を眺められる平和な世の中を、将来に繋げていきたいものです。

01.jpg
2014年1月23日に国立天文台三鷹構内(東京都三鷹市)で撮影した夜空。50mmレンズを取り付けたデジタル一眼レフカメラを天頂に向け固定撮影したもの。露出時間は、それぞれ30秒、60秒、120秒。明るい星しか見えていない。測定された夜空の明るさはこの数年は17等級前後だった。都心よりは1等級以上暗い。



参照先リンク
・環境省 全国星空継続観察(スターウォッチングネットワーク)
 http://www.env.go.jp/kids/star.html

・星空公団 全国星空継続観察の休止に伴う暫定調査実施について
 http://kodan.jp/release130421/

・星空公団 デジカメ星空診断
 http://dcdock.kodan.jp/

・若田宇宙飛行士が国際宇宙ステーションから撮影した日本列島の夜景
 (若田宇宙飛行士ツイッター @Astro_Wakata より)
 https://twitter.com/Astro_Wakata/status/428192458376110080/photo/1/large

国立天文台天文情報センター 広報室
小野智子
posted by 事務局スタッフ at 15:20| UNIVERSEニュース

2014年01月22日

深海潜水船の迫力

みなさんの前に突然に現れては、また消えていく・・・。
まるで深海生物ダイオウイカの如くUNIVERSEニュースに(たま〜に)登場するJAMSTEC海洋研究開発機構です。こんにちは。

星空や宇宙探査が大好きな読者のみなさんも、昨年に突如として沸騰した「深海ブーム」が気になったのではないでしょうか。太陽光も届かない暗黒世界の神秘的な生命体や探査機たちに、オッ?!と、ご関心をいただけたのではないかと思っています。正直、私たち海洋科学技術の広報に携わっているものでも、世の中に、こんなに深海ファンがいらしたんだと、たくさんのお問い合わせにうれしい悲鳴を上げながらも、少し晴れがましいですね、という気持ちでもあります。

01.jpg
ウィリアム・ビービ(左)とオーティス・バートン。潜水球「バチスフィア」の前で。
Image courtesy of the Wildlife Conservation Society


「海に潜る」という人類の挑戦の歴史は実に古いものです。すでに紀元前には、アレキサンダー大王が潜水鐘(ガラス製)で潜航したとか、日本でも戦国時代に村上水軍が潜水船を計画した(実現したかは不明)なんていう記述が残っているそうです。1930年代に海洋学者で探検家でもあったウィリアム・ビービが、自ら潜水球「バチスフィア」に乗り込み、世界で初めて深海の冒険に挑んでからというものの、さまざまな工夫や苦労(!)を重ねて、今日では水深4000mを超える深度まで調査できる有人潜水船が各国で活躍しています。このあたりのお話は、われらが「しんかい6500」の潜航長を務めたパイロットが書き下ろした一冊、『ぼくは「しんかい6500」のパイロット』にも紹介されています。

そんな挑戦をし続けてきた有人潜水船の実機を、あなたの目の前で見て、その迫力を感じてみたいと思いませんか。いや、好奇心旺盛な天文宇宙ファンのみなさんであれば、当然そう思うでしょ!

じゃあ、今でしょ!と、聖地ヨコスカにあるJAMSTEC本部にお出かけいただいても、残念ながらご覧になることはできません。ごめんなさい。鋭意運用中の「しんかい6500」をはじめ、潜水船や探査機は調査航海に出かけていることが多く、なかなかご見学いただける機会を設けることができません。

ところがです。実機を見る方法があるんです。しかも、いつでも。

02.jpg
有人潜水調査船「しんかい2000」


「しんかい2000」という、名前のお尻についた番号が異なる潜水船があります。この娘は「しんかい6500」のお姉さんにあたる日本初の本格的な潜水調査船で、その名の通り、水深2000mまで潜航することができます。1981年の完成後、暗黒で高圧の深海という環境でも体内で化学合成を行うシロウリガイのコロニーを発見したり、深海熱水噴出域を日本で初めて発見したりと、のべ数百人の国内外の研究者とともに深海研究の飛躍的な発展に貢献しました。2002年11月11日に、1411回目となるラストダイブを相模湾で終えた後、20年の長きにわたった任務を終えました。

その「しんかい2000」は、2012年に神奈川県にある新江ノ島水族館にお嫁に行き、現在は第2の人生を歩んでいます。展示となっても「しんかい2000」は元気です。絵本『きかんしゃ やえもん』のように、毎日、毎日、たくさんの大人や子供たちが会いに来てくれます。水深2000mの圧力にも耐えられる耐圧殻もそのままに、イザとなれば、いまでも深海に旅立てる気持ちを持った実機です。水族館スタッフのみなさんに、いつも船体を綺麗に磨いていただいていますが、潜航当時の傷やマニピュレータの使用感からは、実際に人が乗り込んで深海底に行っていた気配が感じられて、何とも言えないホンモノの迫力があります。

03.jpg


ホンモノですから、整備も行います。

年末の12月28日には、かつて「しんかい2000」の運航チームだった面々が、特別に集結し、大掃除とばかりに行った船体整備が公開され、会場からあふれるほど多くのみなさんにその様子をご覧いただきました。

「しんかい2000」運航チームといっても、運用が終了した現在は解散してしまっています。すでに退職された司令や、いまは研究船の管理部門などで現場を支える元パイロットや整備士などのみなさんが、普段使っているキーボードやマウスをドライバーやスパナに持ち替えて、実に手際よくカバーやカメラなどを取り外していきます。命を預かる現場ですから厳しい表情になることも多く、何かとコワモテな印象のみなさんですが、時に笑顔がこぼれ、なにより、久しぶりの現場仕事を、とても楽しそうに整備していたのが印象的です。

04.jpg
この日だけ2Kチームが再結成


このような場面に居合わせるときに、私がいつも感じることは、ホンモノの潜水船そのものだけではなく、実は、その「モノ」に携わる「人々」に出会っていただくことなんだと感じます。

「しんかい2000」を愛情こめて「2K」と呼びあう人たちの表情や、実際に暗黒の深海を冒険してきた人生の凄味こそが、ホンモノの持つ「迫力」として私たちに伝わってくるのだと思います。

ぜひ一度、ホンモノの2Kに会いにお出かけください。

こちらもゼヒ。
■開催された「しんかい2000」公開整備イベントの様子を新江ノ島水族館のブログでご紹介いただいています。|えのすいトリーター日誌

■新江ノ島水族館 深海I〜JAMSTECとの共同研究〜 深海II〜しんかい2000〜
(〒251-0035 神奈川県藤沢市片瀬海岸2-19-1)

■深海映像画像アーカイブズ|JAMSTEC
「しんかい2000」が潜航記録した画像映像も探せます。人気のアノ深海生物も。


それでは、またUNIVERSEニュースに出没する日まで。

海洋研究開発機構 広報部
吉澤 理
posted by 事務局スタッフ at 09:32| UNIVERSEニュース